麗しの香道具✿その四

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源氏香の図の聞香炉です。炉の正面に、香の図が刻み込まれています。

図がちょっと“斜め”っているところがいいでしょう? 


作者は、陶芸家の原田昌枝さんです。

原田さんは、源氏刻というシリーズを手がけられていて、

香の図を刻んだ器を制作されています。http://www.tsuchishigoto.com/newpage113.htm


最初に原田さんの作品、香の図を刻んだカップと出会ったのが去年の夏でした。

ひと目で、その大胆にしてスタイリッシュな刻みに惚れ込んで、

早速連絡を交わし、聞香炉の制作を頼みこんでお願いいたしました。


それから、炉の足の具合から炉の厚さ、重さまで、

無理ばかり言って試行錯誤していただきました。

陶芸に無知な私は、ミリ単位で物を語ることも多く、

なんと原田さんを困らせたことでしょう。

思い出しても申し訳なくて涙が出そうです。


その先に完成した、この源氏香の図の炉……実は、52個、ぜんぶあるのです。


私が一人占めしているわけではありません。

原田さんとやり取りし始めてすぐ、

「古心流のみんなで、52個すべての香の図の炉を持てたら素敵だな…」という夢が浮かびました。

香道には、源氏物語にちなんだ組香が、「源氏香」だけでなく、それはたくさんあります。

もしすべての香の図の炉があったら、

「葵香」の時には葵の炉が、「花散里香」の時には花散里の炉が、

「空蝉香」の時は空蝉の炉が、使おうと思えば使えるのです。

これは、もてなす側にとっては豊かな財産です。


でも…それは大変なことなのです。もちろん制作する原田さんにとって。

52個、ぜんぶ違う図の炉を、それぞれ1点ずつ…これがどんなに大変で、

効率とかけ離れたお願いであったことか…。

原田さん、本当に、いくら感謝しても、し足りません。

一球入魂という言葉がありますが、原田さんの場合は、まさに一刻入魂。

あの刻みのひとつひとつに、原田さんの魂がこもっていると私は感じています。


こうして、すべての香の図の炉が完成し、お家元宅に納品されたのが今年の春。

それから、聞香炉は、古心流の門人たちに、それぞれ貰われてゆきました。

若紫の炉は誰それが、明石の炉はあの方が、末摘花の炉はかの人へ…と。


52個の聞香炉は、あれから次々に香席デビューを果たしています。

今日も誰かの掌で、静かに香を立ち昇らせていることでしょう。